Research
研究紹介
見た目が良く、かつ美味しい果実の生産が求められる日本では、いわゆる篤農家的な栽培技術が多く発展しています。
深層学習などの新しいアプローチを園芸学に取り入れ、そのような栽培技術の解析を行うことができれば、
日本の優れた果樹栽培技術を客観的に評価し、普及させていくことが可能となるかもしれません。
美味しい果実がより手軽に生産・販売でき、多くの人にとって果実が身近なものとなる未来を目指して研究を行っています。
果樹園芸学とは
果樹園芸学は果実の生産と利用を扱う園芸学の一分野。
果樹園芸学分野では特に、
「果樹」(樹に果実をつける植物)が研究の対象。
果実生産のための基礎的な探求だけでなく、果実生産とそれに必要な技術開発といった応用までを含む。
「果樹」とは果実のなる樹木の意味であり,日本の果樹園芸学においては草本性作物の果実(イチゴ,メロン,スイカ,トマト,キュウリ,ナスなど)は取り扱わない
(例外:多年性草本であるバナナ,パパイヤ,パイナップル,
ドラゴンフルーツなどの熱帯果樹)
本研究室では
栽培の効率化を果たす新しい技術の開発を目指す。
深層学習技術を応用した簡便な優良果実の非破壊判別や病害・障害検出などに焦点を当て、優良果実の生産に 必要な栽培技術の解析などを行っていく。
現在の主な研究内容の例
果樹を対象とした深層学習・画像解析
1. ブドウの生理障害等に関する研究
2. ニホンナシの病害診断に関する研究
3.高品質果実の安定供給技術の開発に関する研究
本研究室で実施する研究の背景
「高品質果実の高価格販売」が増加
日本の果樹生産では,高品質果実の生産が重要


ブドウでは,高価格な‘シャインマスカット’が栽培のしやすさと高い果実品質などを要因に
需要と生産が大きく伸びている。
・贈答用など、高品質果実の需要も大きく、生産性の高いブドウ品種として、生産が拡大
・長野県はブドウの生産量上位(令和3年,1位)
・全国の流れと同様に、長野県でもシャインマスカット’の栽培が拡大している
・生産者の高齢化、次世代への樹園地の継承、改植の遅れによる樹園地の老朽化など問題も多数
→今後予想される更なる栽培拡大・流通量の増加に向けて、安定生産のための栽培管理が重要となる
安定生産・新規就農者に向け,
「日本の優れた栽培技術の解析」が重要
高品質果実生産には篤農家的技術が必要となる事も



図 生産しやすい新しい栽培手法の提案も進んでいる
左:リンゴの高密植栽培
中:ブドウの短梢剪定
右:ナシのV字ジョイント栽培
新技術による“栽培の解析”の可能性
“深層学習”による様々な研究・解析技術が発展


図 Web of Scienceで論文検索した際の一例 (左: 全体,右: 農学関連)
“深層学習”の研究と応用は、ここ数年で急速に発展
日本でも果樹分野における応用研究が行われ始めている。
〇カキ
生理障害,種子数,果実検出・品種の予測
[Akagi et al., Plant Cell Physiol., 2020;
Masuda et al., Hort. J. 2021;
Kusumi・Osako et al., 2021]
〇ウメ
果実の物体検出,熟度の予測
[建本ら,農業情報研究,2019]
〇リンゴ
等級・品質の診断
[Osako et al., Acta Hort. in press]
〇ライチ
品種,内部形質(種子サイズ)の予測
[Osako et al., Acta. Hort., 2020;
Osako et al., Sci. Hortic., 2020;
Osako et al., Trop. Agric. Dev. 2023]

カキ果実の検出・品種予測

ライチ品種識別における
識別要因可視化の例
1.ブドウの生理障害等に関する研究
新規の生理障害の要因特定は難しく、様々な栽培環境を有する果樹では特に困難です。
本研究室では、近年、ブドウ‘シャインマスカット’で報告された「未開花症」を対象として、
画像解析・深層学習・ドローンによる新しい果樹圃場調査に取り組み、その要因解明・対策技術の開発を目指しています。
・「未開花症」について



「未開花症」は長野県で栽培される‘シャインマスカット’において最初に報告されました。
(川合,2021)
花蕾が生育を停止し、開花・結実が困難となる症状
→花の枯死・脱粒が発生
決定的な原因は未解明
ジベレリン処理した場合も奇形果となる。
→症状に気づかなかった場合、果実生産ができない

正常花蕾の縦断切片

「未開花症」が認められる花蕾の縦断切片
・未開花症の栽培管理における対策支援技術

開花前の花穂画像から未開花症の有無を
9割以上の精度で診断する深層学習モデルを開発。障害花房の早期発見により、 適切な着果管理に寄与できる技術となる。

・「未開花症」に関連したブドウ圃場の網羅的画像解析手法の開発
定量的評価が難しい栽培管理や生育環境の情報が内包される「圃場画像」に焦点を当て、画像解析・深層学習による網羅的な圃場の比較解析から、これまで評価の難しかった特徴を客観的に見出すことを目指す。








2.ニホンナシの病害診断に関する研究
ニホンナシ等の果樹栽培において問題となる「白紋羽病」は土壌病害の一種であり、土壌に存在するという特徴から、気づいた時には手遅れになっているケースもあります。しかし、その診断には専門の知識や熟練の経験が必要であり、広い範囲で調査・診断することは難しいのが現状です。本研究室では、診断に画像の深層学習を応用し、写真を撮ればだれでも診断が可能になるような深層学習 モデルの開発を行い、効率的な病害診断を可能とすることを目指しています。

南信農業試験場との共同研究
南信地域のナシ栽培圃場で問題となっているナシ白紋羽病を対象とする。
簡易的な調査方法として「枝挿入法」というものがあるが、
素人には菌の有無の判断が難しく多数検体の診断も難しい。
※感受性のある樹種の枝を調査圃場に挿し、
一定期間後に枝に菌の付着があるかを検査
→「人の目」で見て判断が可能な事象であるため、
画像解析によっても客観的に判断が可能な事象である可能性が高い




樹体の衰弱(左図)や枯死(右図)が発生
→症状が現れてからの対策は困難


画像解析手順のイメージ
今後は圃場のドローン画像による解析も行っていく
3.高品質果実の安定供給技術の開発に関する研究
品質の高い果実の供給には、効率的な栽培手法の確立はもちろん、正確な選果技術も重要です。高齢化や担い手不足の中でそういった技術を維持するために、人工知能・スマート農業を応用 した支援システムの開発に取り組んでいます。
AI技術を活用した 障害果の非破壊評価と要因解明
→深層学習によるリンゴ果実品質の識別


人の手による選果では、ミス・見逃しが発生することも。
「人の目」に頼らない選果技術(AI選果機)より、安定した果実供給に貢献。
最初の大まかな選別は人の目によって行われている。ここの 基準に関しても客観的に行う ことができれば,より効率的な販売に繋がるのでは?
